瑪瑙とは何か

 

瑪瑙については、文献によって全く異なる定義が存在する。

瑪瑙の美しさを哲学的・美的観点から見る広い解釈も存在するが、ここでは鉱物学的解釈を重視した、マイケル・ランドメッサーによる著書「瑪瑙の起源の理論」に基づいて説明する。

 

ランドメッサーによると、瑪瑙はまず帯状の玉髄の集合体(縞のある玉髄)として定義される。

玉髄は隠微晶質であるため肉眼で結晶構造を確認することが出来ないが、水晶のように結晶構造(低温型、三方晶系)をもつ。

玉髄は主に低温型の石英SiO2であるため、瑪瑙も単にSiO2により構成されていると言える(厳密には瑪瑙は玉髄の他、SiO2の多型であるオパール-A、オパール-CT、クリストバル石、モガン石も伴う)。

 

ただ瑪瑙の世界には、一般的な帯状の縞瑪瑙だけでなく様々な瑪瑙が存在する。

例えば、よく知られている苔瑪瑙、縞がほぼ平行に並ぶオニキスタイプの瑪瑙、または他の鉱物が置換した仮晶の瑪瑙等がある。

「瑪瑙」という定義は、これらすべての特殊な形態もカバーするように拡張する必要がある。

 



瑪瑙の発生について

 

基本的に、瑪瑙は火山岩、深成岩、堆積岩などのあらゆる種類の岩石や、木、恐竜の骨やサンゴの化石にも発生する。

特に溶岩が冷えて固まってできた火山岩である流紋岩、玄武岩や安山岩が、瑪瑙の主成分となる二酸化ケイ素の比率が高いため、ほとんどの瑪瑙はこれらに見られる。

 

瑪瑙が発生する適切な空洞は、主に火山岩の気泡である。

まず火山の溶岩が流れ出ると、最初に溶岩の外側の部分が冷えて固くなる。

多かれ少なかれまだ液体の中には、さらに多くのガス(水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄)が放出されているが、ガスが流出できなくなり気泡が発生する。

そして、気泡内に二酸化ケイ素に富む溶液が満たされる。

溶液がどうやって気泡の中に侵入するのかは、初めは気泡の外側がジェル状の二酸化ケイ素の膜であるため、水や小さな物質を通す半透過性があるためである。

またそれとは別に、外側が硬化している場合でも、気泡内の圧力により毛細血管のように張り巡らされた割れ目が発生し、溶液が流れ込む浸透経路(エスケープチューブ)が出来る場合もある。

前者は一般的な同心円状の縞模様が形成されるが、後者は以下の写真(1 , 2)のような特徴のある縞模様になる。

 

  

 

 

瑪瑙の形成の温度については、200度を超えると瑪瑙が不可逆の変化を起こすため、100°C未満だと最近の研究では言われている(マグマが冷えて固まる際に生じる熱水溶液または温泉の温度)。

大部分が玉髄で構成されている瑪瑙は、オパールよりは安定しているものの、水を含む為高温により風化や変色が起こる。

 

溶液の硬化については、自然冷却に加え、凝灰岩や火山灰が雨水に溶けて火山岩内の気泡内に染み込み、弱アルカリ性塩化物水になることにより続成作用が起こることで発生する。

化学平衡状態にあったシリカモノマーSi(OH)4が硬化し、瑪瑙になる。

 

また、気泡内だけでなく、岩の破片の間の隙間や空洞でも瑪瑙が発生する可能性がある。

岩の脈の中に形成された瑪瑙は、気泡の中で形成された丸い団塊と比べて角張っており、Seam AgateやVein Agateと呼ばれる(3, 4)。

 

  

 

 



瑪瑙の層について

 

気泡内で、二酸化ケイ素を含む溶液中の二酸化ケイ素が沈殿する、まるで水に入れた砂糖が溶け切らずに沈殿するかのように(ただし砂糖と違い、この時の二酸化ケイ素は液体状である)。

二酸化ケイ素には様々な状態がある。

シリカモノマーSi(OH)4、アモルファスSiO 2(ゲル状、オパールA)、オパールCT(クリストバル石/トリジマイト)、玉髄/モガン石、水晶(粒状石英)の順に鉱物として成熟して安定していく。

二酸化ケイ素の成熟は、水の中にある場合の時間経過や鉄などの金属粒子の存在によって加速する。

二酸化ケイ素は成熟しているほど水に溶けなくなる(専門用語で言うと、溶解-沈殿平衡が低くなる)。

 

火山岩に接した気泡内の一番外側は鉄に富む為、沈殿した二酸化ケイ素の成熟が一番早い。

成熟すると二酸化ケイ素の溶解度が低くなり、二酸化ケイ素が排出される。

排出された二酸化ケイ素は気泡内の中心の空洞近くに移動、拡散する。

この繰り返しにより、二酸化ケイ素の状態や濃度が違う層ができ、同心円状の縞瑪瑙の層が発生する。

 

通常、気泡内の中心から外側に向かう気圧や外周の豊富な鉄分の関係で上記のようになるが、速い凝固の条件下では、単に重力によって、凝集した大きな二酸化ケイ素粒子が水平に積み重なり、オニキスタイプの瑪瑙が生まれる場合もある(5)。

赤鉄鉱など鉄を含む内包物により、周辺の成熟が早まり、円状やチューブ状の模様が生まれる場合もある(6)。

また内側が縞のある玉髄になり、外側がより成熟して水晶になったものは、瑪瑙が水晶に浮かんでいるようで美しく、フローターと呼ばれる。

逆に外側が縞のある玉髄になり、内側がより成熟して水晶になり晶洞となったものは、ジオードと呼ばれる(水晶のみの場合も含む)。

 

  

 

 



また、一番初めの硬化作用として、緑泥石の一種であるデレス石(Delessite)が発生することがある。

いわゆる瑪瑙の外殻部分で、鉄に富み緑色をしている。

 

Si(OH)4がどのような順番で硬化するか、成熟の差によってオパールの部分や水晶があったり、是非手持ちの瑪瑙を見て考察してほしい。



リーゼガング現象

 

瑪瑙の層がどのように出来るのか、2000年以前はドイツのラファエル・リーゼガングによる、リーゼガング現象によるものだという説が主流だった。

彼の著書Die Achate (1915)によると、金属イオンを適切な陰イオンを含む二酸化ケイ素のジェルに拡散させることにより、瑪瑙のような縞模様を生み出すことが出来ると。

以下はYoutubeで見つけた動画だが、硝酸銀をクロム酸塩を含むジェルに加えると、層状の模様が出来ている。

https://youtu.be/0_au-mNNv6w

ドイツのBaumholderの瑪瑙(7)のように、リーゼガング現象による模様もないわけではないが、例外的である(赤い部分がリーゼガングリングと呼ばれる)。







瑪瑙の年齢について

 

現代では、ウラン同位体の放射年代測定により、U同位体を含む特定の岩石の年代測定が可能になった(一例としてU238によるフィッショントラック法等)。

原子核崩壊による核種変化、または放射線による損傷を利用して、岩石や化石の年代(形成以降の経過年数)を測定することである。

 

ただ、瑪瑙には測定に必要な放射線が十分含まれていないものが多く、上記の測定による特定が難しい。

そこで瑪瑙の含まれる母岩を測定した所、世界で最も若い瑪瑙の母岩は、3800万年前のメキシコの玄武岩であることが分かった。

対して世界で最も古い瑪瑙の母岩は、11億年前のスペリオル湖の母岩である。

しかし、母岩の年齢と瑪瑙の年齢は必ずしも一致しない。

 

別の方法として、イギリスのケンブリッジ大学では瑪瑙の0.03mmの薄片を拡大し、物理的特性(密度や瑪瑙を構成する結晶子の成長など)を調べ、年代との関連を探した。

この実験の過程で、玉髄繊維の間に存在するシリカの一種であるモガン石が、年代とともに減少することが判明した。

同時に、瑪瑙の構造内に閉じ込められていた内部水分も経年変化により減少することが分かった。

ここで、玉髄の結晶の成長は、モガン石から玉髄への変換によるものであると主張された。

約4億年後、モーガナイト転換が完了した。

これより古い瑪瑙は、水の組成がほぼ一定で、モガン石は微量であるため、結晶子の成長が停止している。

一般に、4億年未満の母岩の瑪瑙は、その結晶子サイズによっておおよその年代を決定することができる(一部例外あり)。

しかし残念ながら、このような性質の変化は4億年程度で止まり、より古い母岩から調査された瑪瑙は、互いに見分けがつかないほど似た性質を持っている(4億年以上前の母岩の瑪瑙は、ヨーロッパの文献にある中ではスペリオル湖の瑪瑙のみである)。

 

年代測定は高価であり、瑪瑙にその技術を適用する動機はほとんどないが、以下にいくつか判明している瑪瑙の年代を記載する。

メキシコの瑪瑙3800万年前、レイクスペリオル・アゲート2000万年前(母岩は11億年前)、オーストラリアのピルバラ・アゲート2億~2億7200万年前(変成作用からの推測)
その他参考として、地球最古の岩石は約40億年前のもので、地球の年齢は約46億年と推定されている。

 

参考文献 Johann Zenz 「AGATES」, 専門用語はwikipediaで調べながら書いております。

随時訂正したり、続きを書きます・・・( _ _)